サキュウの前に、まずは運営するタンデム社を知って下さい。
タンデムは国内生産のOEM会社として2001年に設立されました。
OEMとは、例えばあなたが作りたいデザインがあるとします。
でも、あなた自身ではパターン(型紙)も生地屋も工場もアテがないとすれば、専門家のサポートに頼ることになります。
その専門家がOEM会社で、もの作りに関するあらゆる分野に精通しています。
特に洗い加工が必須のデニム製品は、新品を中古にするという特殊な製品なので、ジーンズと他の衣料品の作り方は「床屋と美容室」のように似て非なるものです。
ジーンズ作りには特別なノウハウが必要なので、ほとんどのアパレルメーカーがOEM会社を利用しています。
私たちは、世界的なブランドや大手アパレル・商社のOEMを受託し、厳しい品質基準をクリアするもの作り専門の企業です。
焼いた後で300gにするのが、ジーンズ作り
「300gステーキ」とは、焼く前の重さでしょうか? 焼いた後でしょうか?
正解はもちろん「焼く前」です。
肉は焼くと縮んで、脂が溶けて300gじゃなくなるのは誰でも理解してるので、それに文句を言う人はいません。
もし焼いた後で300gにしようとして320gで切っても、それぞれ肉質も脂の量も異なるし、焼き方も様々ですから、全てのステーキが300gに揃うはずがありません。
では、「ジーンズの股下75cm」は焼く(洗う)前? 後?
これはステーキとは逆に焼いた後です。
コットンも農作物なので品質は一定ではなく、縫えは伸び、洗えば縮みます。
焼き方(洗い加工)もレア(ワンウォッシュ)〜ウェルダム(ヘビーユーズド)まで多種多様です。
にも関わらず、ちゃんと表記通りになっているジーンズってすごいと思いませんか?
寸法ひとつとってもこうですから、ジーンズ作りはあらゆる局面で専門知識が必要なのです。
サキュウは、タンデム社の高い技術と経験を活かして、OEM会社の中間マージンを省いた、価値あるブランドです。
漢字で「砂空」と書くサキュウは、2006年にデビューしました。
洗いを象徴するストーンウォッシュで砕けた「砂」、インディゴブルーの「空」に由来します。
デザイナーはタンデム代表のツルマルナオキ。
大手ジーンズメーカーのデザイン・生産部門に11年在籍して、入社1年目は工場に住み込んで研修を受け、ミシンの修理ができるほどの経験を積みました。
ツルマルはデザインだけでなく、自ら店頭に立ち、パターンメイキングし、工場管理、縫製指導まで行う、もの作りのスペシャリストです。
生地メーカー・縫製工場・加工工場とも直接取引しており、OEM会社の中間マージンも入らないので、サキュウの20,000円のジーンズは、他ブランドなら30,000円を超えるプライスタグが付くはずです。
私たちがメニュー選びに悩むのは常におかずの方です。
同じおかずが2回続くのは嫌なのに、白ごはんは毎食当たり前に食べています。
しかもなぜか、ごはんがおいしければおいしいほど食事が進みます。
ジーンズ本来の役割とは、白ごはんと同じだと思うのです。
同じトップスは2日連続は抵抗があるのに、ジーンズは毎日穿いても抵抗がない。
コーデ(おかず)を選ばないし、いいジーンズ(おいしい白ごはん)はさりげなく全体を引き立ててくれる。
私たちが考える本当にいいジーンズとは、そんな、おいしい白ごはんのようなもの。
それをOEM会社のタンデムが作れば、生産直売のしっかり手間ひまかけた、おいしいジーンズができ上がるはずです。
サキュウがデビューした2006年当時の流行は、股上が超浅く、ラインストーンや刺繍で派手に飾った、ゴテゴテしたデザインの何万円もするインポートの美脚美尻のブーツカットが一大ブームでした。
今では考えられないことですが、この頃は定番的な5ポケットジーンズは、店頭からほぼ消滅していました。
それほどデザイン性の強いセレブなブーツカットは市場を席巻していたのです。
でも、私たちが作りたいのは、まっさらな白ごはんのようなジーンズ。
流行には完全に逆行するけれど、職人技を詰め込んだ「本当にいいジーンズ」を作りたい。
「わかる人だけ買ってくれればいい。」という思いで、ヴィンテージをベースにした赤耳の5ポケットのストレートとボーイフレンドの2アイテムからスタートしました。
サキュウのジーンズは完全にトレンドの逆を行ってましたから、スタート当初は、案の定、鳴かず飛ばずでした。
そんな中、最初に目をつけてくれたのは、雑誌LEEのスタイリストでした。
ゴテゴテしたジーンズを毎日のように見てきた彼女を魅了したのは、見た目はヴィンテージそのものなのに、ヴィンテージにはない女性的で美しいシルエット。
きっと、デザイン性の強い油っこい料理ばかりで食傷気味だったところに、さらっとお茶漬けが出てきたように感じたのかもしれません。(笑)
彼女が個人買いしたサキュウを穿いて撮影現場に行った途端、モデルさん達に「それどこの?」「すごくいいじゃん!」「私も欲しい」となって、モデルさん達も次々に個人買いしてくれました。
それが編集部の目に止まって、ジーンズ特集の号にサキュウのページを掲載してくれることになったのです。
こうして、2008年1月号のLEEに特集記事を掲載された途端、電話が鳴り止まなくなって、お取引先が急拡大。
サキュウが全国区になるきっかけを作ってくれました。
ページには当時の社員一同で写ってますが、元々は私一人で撮影とのことでした。
しかしこの頃は、正直業績がどん底で、数ヶ月後には倒産が現実味を帯びていたのです。
最後の思い出とばかりに、社員一同で載せて下さいとお願いしました。
もうほんと、死線のキワにあった私たちを救い出してくれて、LEEさんには心の底から感謝しています。
あれから時が経ち、あれほど市場を席巻したセレブなブーツカットは市場からすっかり消滅して、ベーシックな5ポケットが主流になりました。
ヴィンテージベースのレディスジーンズもすいぶん増えて、市場は一変しています。
デビューの時、自分の信念に従わずにセレブなブーツカットを作っていたらと思うと、正直ゾッとします。
倒産の危機にあったからこそ、自分達が理想とする本当にかっこいいジーンズを作ろうと開き直っていたのが、この幸運を呼び込めたのかもしれません。
現在のサキュウはヴィンテージ以外にもアイテムが拡がって少しわかりにくいですが、根底に流れるのは変わらず、「本当にいいジーンズを作る」こと。
製品のコットン産地の西アフリカ・ブルキナファソに小学校を作るジーンズ、震災で親を失った子供たちの学費になるジーンズ、りんごと同じ重さのジーンズ、ヒップがコンパクト見えるジーンズなど。
これからも、この先も、本当にいいジーンズを追求し続けてゆきます。
工業製品といえども、もの作りとは農業と同じ。
私たちは、ジーンズという作物を栽培するファーマー(農家)です。
農家が土作りからこだわるように、私たちは足しげく工場に通い、毎日連絡を取り合い、生産ラインに流し、品質を維持管理して、収穫します。
私たちが購入して工場に投入したミシンや機材はすでに50台を超えるほどで、普通のブランドではあり得ないレベルで工場さんと二人三脚でもの作りをしています。
私たちのように、デニムだけを24時間考えている人間もいれば、ニットを、スーツを、帽子を、シューズを24時間考えているプロがいます。
それぞれの世界に24時間体制の人々がいて、仮に私たちがシューズを作ろうとしても、その道のプロが作るものを超えられるはずがありません。
だから、Tシャツを作る時には、デザインとパターンはサキュウが起こして、栽培はその道のプロである「Good.On」にお任せして、「おいしいTシャツ」を収穫します。
私たちはジーンズ栽培専門の農家ですから、スーパーマーケットのように小物や靴まで揃えたフルアイテムのブランドにするつもりはありませんし、できません。
私たちは、サキュウをおいしい料理(コーディネート)にして、素敵な空間とサービスでお客様に提供するレストラン(ショップさん)だけに、手塩にかけて育てたサキュウをお届けしています。